百鬼夜行:鉄鼠の檻 脳内整理と考察と感想

※犯人等 重要なネタバレがあります

秋口から読書を始めました。何冊か読んでから、慣れてきたし前に途中で積んでた鉄鼠いけるのでは?って感じで手をつけました。京極作品は難しいし長いからめっちゃ気合いがいる。
今回もやっぱり難しかったので、わからない単語調べたり読み直したりしながら整理してみました。

ざっくり表

最終的にわかった明慧寺の内情がこんな感じです。

犯人の動機

動機がわかって衝撃だったんだけど、仁秀の正体や禅の歴史を知ってやっと理解できました。
元々明慧寺にいた仁秀は北宗禅(漸悟)で、そこに真逆の南宗禅(頓悟)の僧たちが勝手に入ってきて寺を乗っとってしまう。挙句、100歳近くなってもずっと修行を重ねてるけどいまだに一度も悟れたことはなく、自分が望んでいたもの(悟り)を得ていくのを真近で見せられる。そりゃそうなるよなって思った。しかも自分と違う頓悟で悟られたら、漸悟だめなん?てずっと信じてたものを否定された気持ちになってしまいそうですね。
寺を乗っとられたことや慇懃無礼な態度は気にもしてない感じだったけど、そこは殺意に含まれず、ただ「大悟したから」っていう動機になるのが今回の犯人の怖いところだと思いました。

被害者が悟ったきっかけ

了稔以外が悟ったきっかけって、外の人間との接触なんですよね。
泰全…今川との会話
博行…榎さんの一言
祐賢…常信との会話(常信はその前に京極堂と話している)
結局のところどれだけ修行してても明慧寺の中だけで完結してたら大悟に至るのは難しかったのかもしれない。でも、大悟しなければ死ぬことはなかったんですよね。寺に入った時点でどう転んでも不幸しかないのは皮肉ですね。

参禅した祐賢

参禅がよくわからなかったんですが、本来は上の人に大悟したって報告したら公案がだされてそれに答えて、ちゃんと悟ってるね合格!ってなるところを、禅宗の知識が全くない覚丹は「おめでとう(袈裟あげときゃええやろ)」で済ませたってことですよね。
悟って、これからすべきことも見つけて、行ってみたら思ってたのと違う反応されて、不信感と戸惑いを抱えたまま殺されるの一番きつい気がします。

からっぽの慈行

ここの解釈がいまだに自信ないです。まず、13歳の時に入山。明慧寺生え抜きの僧になる。
なったはいいけど正しく導いてくれる人がいなかったってことなんですかね。まず祐賢、常信は宗派が違う。同じ臨済でも了稔は弟子をとるタイプじゃなさそうだし、泰全は過去に慈行を襲ったことがあるからこれもなし。覚丹は論外。この状況で禅の深いところまで学ぶのは無理があるんだよな。
ほんと、明慧寺にいたほぼ全員に言えることだけど、慈行の15年間てなんだったんだろうって思う。榎さんが慈行に言った「子供の癖に」っていうのは、僧の真似事(ごっこ遊び)してるだけってことを言いたかったんでしょうか。

鈴を鈴子の娘と誤認したいきさつ

これほんとすごいなと思ったんですが、久遠寺さんと仁秀の会話で、仁秀は一度も拾った時の鈴を赤子とは言ってないんですよね。話す前に久遠寺さんが仮定を提示したことによって読み手にもバイアスがかかって、そこからさらに仁秀が言ってることを勝手に解釈した久遠寺さんの言葉で、自然と鈴=鈴子の娘っていう説が自分の中で確定してしまったんだろうなと思います。

関口くん=読者

関口くんて限りなく読者と同じ目線で物語に関わってくれる存在ですよね。最後の仁如の告白を促すところとか、うろ覚えだけど魍魎の匣でも匣の中身を見たがってたし、読者の好奇心を代弁してくれるというか満たしてくれるというか
結果ろくなことにならないんだけど、京極堂に強く咎められると読んでるこっちにも言っているような気がしてドキッとしてしまいます。
結局、京極堂はどんな形で鈴子を救おうと思ってたんでしょうか。過去が知れてすっきりした反面、逆に別のもやもやが残る終わりでした。

感想

題材的に全く知識がなくて読みきれるのか不安でしたが、読み終えた時の達成感はひとしおでした。正直、難しすぎて全然頭に入ってこなかった部分もあるんだけど京極先生の知識量にとにかく圧倒されました。それだけじゃなくて、解説で言われてた通り、この一冊で禅に詳しくなれた気がする。ただ説明するだけじゃなくて、物語に落としこんで綿密に話を組み立ててしまえるのがほんとにすごいです。

改めて最初の方を読んでみると、尾島と犯人の会話ですごいヒントが出てましたね。「漸修」がなにか知ってる人ならまず明慧寺の僧は犯人じゃないって気づけそうですね。一番あやしくなってくるのが仁如なんだけど、わかりやすいミスリード感があるんだよな。でも仁秀=僧って結びつかないから容疑者にしきれなくて混乱するんですよね。
禅に詳しい人、詳しくない人、それぞれ違った楽しみ方ができるのいいなと思いました。

百鬼夜行シリーズにおいて榎さんてチートキャラだけど、性格が独特だから匙加減が毎回いい塩梅。今回だって寺に関わる人全員 榎さんが見ていけば即解決だったと思う。でもそれはせずに、いい加減さと破天荒さでひっかきまわして物語を動かしてくれるのほんと好き。
管野の公案にぼくだと言いきるのが面白かったです。榎さんにとって悟る悟らない以前に迷いがないから修業もいらないし禅とは真逆の世界の人って感じですね。

小説読み終えてから漫画も読みました。志水先生のキャラデザいつもイメージに合ってるし、1300ページ分を5冊にうまくまとめられるのがほんとにすごい。
今はスピンオフのお話を描かれてるけど他の本編も今後描いてくださったりするんだろうか。

最近新刊が出たけど追いつける気がしない。次の絡新婦の理も近いうちに読めたらいいなと思います。